あさか開成 校長雑感

思わず手に取る、この一冊

昨日、放課後、3年生の図書委員の溝井梨華子さんと松本彩花さんが、できたてほかほかの「図書館だより」を持ってきてくれました。

今回は、冬期休業中の長期貸し出しが始まったことを知らせるもので、「思わず手に取る この一冊」の特集が組まれていました。

溝井さんと松本さんの「思わず手に取る この一冊」としての推薦は、湊かなえさんの『リバース』、ダニエル・キイスさんの『アルジャーノンに花束を』でした。

「イヤミスの女王」と呼ばれる湊かなえさんですが、私は、最近、湊さんの新たなジャンルの小説を読みました。『ブロードキャスト』です。爽やかな青春ドラマでした。湊さんのことだから、この辺で人間関係が崩れ、心の闇がでてくるのかと思いきや、最後まで爽やか青春ドラマでした。舞台は高校放送部、運動部をやめた主人公がラジオドラマへのめり込んでいく小説です。放送部、そして、ラジオドラマへの見方が、大きく変わった小説でもありました。ちなみに、『リバース』はイヤミスです。最後の、最後で、大どんでん返しが起こります。落ち込みました。

『アルジャーノンに花束を』は、20年以上前に読んだ記憶がある本です。こんなところで出合うとは思ってもいませんでした。『アルジャーノン』を読むと、キューブリックの『時計仕掛けのオレンジ』を思い出してしまいます。強制的な手段での矯正によって人を変えることは不可能であり、人を変える手段として有効な、かつ、最大のものは教育であると思っています。

最後に、今年の私の「思わず手に取る この一冊」を紹介しましょう。ベタですが、瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』です。「こんな家族ないよ」という批判が聞こえてきそうな小説ですが、私は心温まる傑作であると思っています。特に、義理の母である梨花の生き方がすごいと思います。日本は、どうしても、血縁という関係性を重視しがちですが、人と人のつながりはそれだけではありません。また、『バトンを渡す』という題も、平成から令和という新たな時代を迎え、とても良い題だと思います。今我々に求められているのは、子や孫の世代に誇れるようなものを残すこと、つまり、バトンを渡すことが大切だと思いました。

きらびやかなイルミネーションも素敵ですが、心に小さな希望を灯をともすことも大切です。自分の心に残る一冊を、手に取りましょう。