あさか開成 校長雑感

平和とは⑤

『平和について』の連載が5回目になってきました。こんなに続くとは考えていませんでしたが、みなさんは、私が訴える平和について少しは理解できたでしょうか。

私は、平和とは単に戦いがない状態を指すのではなく、貧困、飢餓、病気、そして差別がなく、人々が安全に安心して暮らせる状態だと思っています。その一つの象徴が「笑顔」です。本校のよさこい部やフラ・タヒチアンダンス同好会等の生徒に、一番大事なものは笑顔だよと言っている理由はそこにあります。自分たちが笑顔でなければ、周りの人に笑顔を届けることはできないと思っています。

話が逸れそうですので戻します。

明日の発表会では被爆体験伝承講話がありますので、戦争にもたらすものについて考えてみましょう。

総力戦という言葉を知っていますか。

世界史を学んだ人なら、第1次、第2次世界大戦で出てくるので覚えている人も多いと思います。総力戦とは、国家の総力を結集した戦争のことで、第1次、第2次世界大戦では、単に交戦国の軍隊が戦うだけでなく,互いにその経済,文化,思想,宣伝などあらゆる部門を戦争目的のために再編し,国民生活を統制して国家のすべての能力を戦争目的に動員して戦う戦術がとられました。すべてが戦争を遂行するために統制されるわけですから、物資の生産も、思想も、戦争のために統制されるようになります。すべての工場が武器を開発、生産し、すべてのメディアが戦争遂行のために使われることになるのです。総力戦になると、戦争の勝敗を左右するのが兵士、武器、物資の補給となります。兵士を補給し、武器や物資を生産するのは非武装地代である普通の都市や村落です。そのため、戦争を有利にするためには、航空機を利用して制空権を掌握し、その補給拠点、生産拠点である普通の都市や村落に空爆を繰り返すのです。その空爆のため、港湾、空港、工場だけでなく、普通の集落も焼け野原となっていきます。広島、長崎では、最新の大量破壊兵器である原爆が投下されました。このように、総力戦となった戦争では、前線で兵士が犠牲となるだけでなく、非武装地帯である都市・村落も破壊、人々が犠牲者となっていくのです。

その総力戦は、核兵器の出現により、全面的な戦争がしづらくなって終了したと言われています。

では、戦争は何をもたらすでしょうか。

単に兵士だけの犠牲だけではありません。兵士ではない一般の市民が、空爆により、そして広島や長崎では原爆により、恐怖を味わうとともに多くの犠牲がでています。そして、焼け野原となった都市では社会機能は失われ、人々は貧困、飢餓に巻き込まれることになります。広島、長崎の人たちは、その後、放射能にも悩まされました。また、負傷した兵士や広島、長崎の人々は偏見にも悩まされたことでしょう。

このように、戦争がもたらすものは一つではありません。戦争がもたらすものは、重層的な苦難です。だから、戦争が終了しても、未来を描くことができない社会だけが残され、復興に多くの時間と労力が必要となってくるのです。これが戦争のもたらすものだと考えます。

しかし、もう一つ忘れてはいけないことがあります。「十五年戦争」の舞台となったのは、中国、朝鮮、東南アジアの国々であったことです。戦争の舞台となった地域はより大きな被害を受けたことを見逃してはいけません。